good night |
「来ないかな…やっぱ」
喫茶店から出て来てはいないようだが、もしかしたら自分に見つからないように裏口から帰ったのかもしれない、と一瞬考えた。が、すぐにやめた。彼女はそんな事をしそうにない。
「しっかし寒いな…そういえばそろそろアレが来るのか?」
そう呟いた瞬間、ぐらりと身体が揺らいだ。
(マズイ、やっぱり無茶だったかな…)
その時ちょうど彼女が店から出て来た。彼女はこっちを僕を見つけると、慌てて駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?遅れちゃってごめんなさい!」
「いや、いいよ。それより飴の缶から飴を一粒出してくれるかな?そこの鞄に入ってるから」
「え、はい。わかりました」
彼女はすぐに見つけだし、僕に飴を手渡した。少し舐めると楽になってきた。
「あのー、大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫大丈夫。それじゃ先に説明しとこうか」
「?」
「僕は冬眠してしまうんだ。一月頃になると。理由はわからない。これはそれを一時的に抑える薬みたいなものだよ」
彼女の方を見ると、彼女はびっくりしていた。そりゃそうだろう。こんな荒唐無稽な話は信じ難い。僕だって未だに信じられない事だ。
「それでも君と一緒にいたい」
「…………はい」
それから朧げな意識の中、彼女に家まで連れていってもらうと、僕は起きたら電話すると約束して彼女と別れた。
* * *
夕方。私と恭一は近くのスーパーに来ていた。あれから恭一が「それなら天気がいいうちに行こう」と言ったからだ。
「大根とこんにゃくと……うん、よし」
そろそろレジに行こうとしたとき、とつぜんカゴにトレイが入れられた。
「餅巾着〜」
「掻き交ぜにくいものを…」
「早く帰ろうよ、寒いし」
出掛けると言い出したのは誰だよ。…まぁいいか。
私がおでんを作り終え、彼の部屋に行くと、彼はベットで眠っていた。
「おやすみなさい」
私はドアを静かに閉めた。
願わくば、どうか、彼の見る夢が悪夢でありませんように。