応接室に行くとちょうど草壁さんが中から出てきた。

「あ、こんにちは、草壁さん」

「お、深原さん。お久しぶりです」

草壁さんは恭弥と話す時と同じように私にも敬語を使う。他の生徒と同じようにしてください、と前に言ったけど草壁さんは「委員長の大切な人は俺にとって委員長と一緒ですから」と言うだけだった。それでもやっぱり落ち着かないのだけれど。本当、昔の番長って感じだ。(見た目もあるけど)

「ああそうだ、これ、どうぞ」

草壁さんはポケットからカラフルな包みの飴玉を取り出した。

「わぁ、ありがとうございます!あ、この前もらったあれ、おいしかったです」

「そうですか。それはよかった。それでは」

草壁さんに手を振ってから軽くドアをノックする。

「失礼しまーす」

「………………………」

空気が重い!

「あ、あの」

「……何」

声をかけると恭弥は書類を書く手を止めてとてつもなく不機嫌な顔で私を見た。

「な、なんでもない。忙しいみたいだから今日は帰るね」

踵を返してドアノブに手を掛けたら後ろから「待ちなよ」と引き留められた。

「どうしたの?」

「…他の奴と仲良くしないでよ」

「…え?」

「明希は僕のことだけ考えてればいいんだ」

小さな子が駄々をこねるように唇を少し突き出してぷいっと目線をそらす。どうやらドアの前だったせいか会話が聞こえていたらしい。

「…あの、あのね、恭弥。私はいつだって恭弥のことしか考えてないよ。誰と話してても、何をしてても、恭弥が一番だよ」

恭弥が一瞬、目を見開いた。

「明希」

恭弥が無愛想な顔で私を呼んだ。多分照れてるんだ。

「帰りに前に行きたがってたケーキ屋に行こうか」

「え、ほんとっ?」

「もう少しで仕事が終わるから待ってなよ」

「うん!」

私が笑ったら恭弥はまた不機嫌そうな顔で「静かに待ってなよ」と言って下を向いてペンを動かし始めた。