『隣で眠る君が愛しくて』
プールに行った帰りの車の中、僕とは広々とした後部座席に座っている。ちなみにこの車は僕の家のものだ。運転手の笹部は幼い頃から僕専属の運転手で、全てを心得ているので何も言わずに運転している。はよほど疲れてたみたいで、席に座ってちょっとするとうとうとし始めた。
しばらくして、ふいにが僕によりかかってきた。しかも「ぅん……」とか言いながらすりよってくるし…ほんと無防備だよ、君は。こんな風だから僕は君のことを心配してるのに、君はなんにも知らないんだ。
当の本人はそんな僕の気も知らず、しあわせそうな笑みを浮かべながら眠っている。……なんでそんなに無防備なんだ。
思わずはぁ、と溜息をついたらがぴくりと震えた。−−−まずい。慌てて小さい子をなだめるように頭を撫でてやると、またすやすやと寝息をたてはじめた。…危なかった。
これが他の奴ならとうの昔に咬み殺しているだろう。と出会って間もない頃に草壁に『委員長は深原さんに優しいですね』と言われたときは『そんな事は無い』と思っていたけど、やっぱり草壁の言う通りだ。僕はが好きで仕方がない。
そろそろの家に着く頃だ。しかしはまだすやすやと眠っている。こんなにしあわせそうに眠る君を起こすのは忍びないから、せめて、と思いそっと唇を重ねる。(あんまり遅くなるとの両親も心配しちゃうし)
ちょっとして、の身体がもぞもぞと動いて目がゆっくりと開いた。わざとちゅっ、と音をたてて唇を離せば、の顔が林檎みたいに真っ赤に染まっていく。
「着いたよ」
「あ、うん」
車から先に降りてそっとに手を差し延べると、がそっと手を重ねて立ち上がる。
「それじゃ、また月曜に」
「うん、またね」
が家に入って行くのを見届けると僕も車に乗り込んだ。バックミラーを見ると笹部が笑みを浮かべていた。僕は何も言わずに目を逸らし、外の景色を眺めた。
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