しん、と静まり返った暗闇にパキッ、パキッという硝子の砕ける音だけが響く。窓からは薄雲の下に満月が淡く輝いているのが見え、どこか神秘的な雰囲気を醸し出している。

―――――どうやら敵は先刻ので最後だったみたいだな。


 数日前に「ここ一帯で薬物を流しているマフィアをしめてきて欲しい」(言葉は微妙に違ったが、要約すればこういう感じだろう)と言われて、僕も丁度手が空いていたから暇潰しとしてやって来たのだが、まぁマフィアと言っても規模は小さいので特に手強い敵も居らず、今回はすんなり終わりそうだ。こんな事なら僕が出向く必要もなかったかもしれない。

 そんな事を考えていると、何かが僕の左肩目掛けて飛んできた。それを躱して右腕に向かってきたのをトンファーで弾くとカキン、と金属音が響いて床に落ちると窓から差し込んだ月光に照らされて、鋭い光を放った―――ナイフだ。

「出てきなよ」

トンファーを構えてナイフが飛んできた辺りを睨むと暗闇から一人―――シルエットからしておそらく女だろう―――が現れた。

「黒ずくめにトンファー……貴方がボンゴレの雲雀恭弥ね。私を殺しに来たの?」

「まぁそういう事になるのかな」

「なら―――」

その瞬間に影は消え、さっきよりも細い針が飛んでくる。トンファーを回転させてそれを払い落とし、そのまま距離を詰めると彼女はあっさりと窓際に追い込まれる格好となった。黒髪に白い肌、薄茶色の眼から僕と同じ東洋人であることがわかる。僕は彼女の首にトンファーを押し付け尋ねた。

「君、戦闘専門じゃないよね」

「…何で?」

「投げる速度が遅い。それに薬品の匂いがするから科学者か医療班…違う?」

彼女は答えず僕をじっと見ている。

「…図星?」

「………そうよ。ついでに言えば上からの命令であの薬物を作ったのも私。殺したいなら殺せばいいし、貴方の好きにしたら?」

「そう。じゃあ―――」

僕は彼女の首に当てていたトンファーを振り上げ、

「僕の好きにさせてもらうよ」

彼女のこめかみに軽く当てた。


「君は今日から僕のものだ」

「―――なっ!」

「僕の好きにしていいんだろう?」

「っ何で殺さない!」

「君が言ったんじゃないか。『貴方の好きにしたら?』って。それに僕は殺しを頼まれたんじゃない」

彼女が不思議そうな顔で僕を見る。

「沢田綱吉が少し調子にのってる小規模のマフィアがいるからしめてくるように。―――それと薬物に関する資料を持ち帰ってくるようにって言ってたからね」

「で、私が資料代わりってわけ?」

「そ。まぁ沢田綱吉は病気の子供がどうとか言ってたけど、そんな事はどうでもいいんだ。とにかく、僕は君が気に入ったんだよ」

「…は?」

彼女が先刻とは違う呆気にとられた表情で僕を見る。

「だから君は僕のものだ」

そう耳元で囁いたら彼女は顔を真っ赤にして、諦めたように「わかったわ」と頷いた。