放課後、いつものように応接室に行くと恭弥が留守だった。
デスクにはボールペンと書類が何枚か置いてあって、椅子には学ランがかけてあった。
「………ちょっとだけ、いいよ、ね」
学ランが床につかないように注意してそっと持ち上げて抱きしめると、恭弥の匂いがした。何でだろ、すごく落ち着く―――――
その時後ろでガチャ、とドアが開く音がした。
「?」
慌てて学ランを椅子にかけておこうとしたけれど、もう後の祭り。
「ねぇ、」
「な、なに…」
「何してたの?」
恭弥が片笑みを浮かべて私に近寄ってくる。
「べ、別に…?」
思わず後ずさったけどすぐに壁に背中がついてしまった。
「そう。じゃあ…」
そう言うと恭弥は私の耳に息を吹きかけてぺろりと舐めた。
「ひゃっ」
「言うまでお仕置きだから」
恭弥がそっと耳に舌を這わせて、甘噛みする。何とか声を抑えようと唇を噛もうとしたら恭弥の指が口の中に差し込まれた。
「唇噛んだらキスするときに僕が痛いんだからね?」
その言葉に私が顔を赤らめると恭弥は嬉しそうに笑い、首に舌を這わせた。
「ひぅっ、ひ、ひうはら!」
ネクタイを軽く引っ張ると恭弥は少し拗ねたような表情で口から指を抜いた。
「で、何してたの?」
恭弥が目を細めて妖艶な笑みを浮かべて私を見る。
「…っ、え、っと……き、きょ恭弥の、学、ランを、抱き、しめ、て、まし、た…」
「ふぅん…何で?」
「………………恭弥の匂いがする、から。……最近私も、忙しくて会えなくて、寂しくて……」
言っているうちに顔が赤くなっていくのが自分でもわかって、言い終わってから俯いていたら恭弥に抱きしめられた。
「っ苦しいよ…」
「…そんなことするより、僕に同じ事したらいいでしょ?」
「そ、それは」
「それとも何?僕の学ランにはできて僕にはできないの?」
「ち違っ、そういうワケじゃ」
「じゃあ今度からは学ランじゃなくて僕にしてよね」
恭弥の胸に顔を押し付けられているから今、彼がどんな顔をしているのかはわからないけれど、声色からして拗ねているの
がわかった。いつもは澄ました顔をしているのにこういうときはすごく子どもっぽくて可愛いな、と思う。そう言うと恭弥
はもっと拗ねてしまうから、私はその言葉を心の中に収めてこっそり笑みを浮かべた。
「」
「っ何?」
いきなり耳元で恭弥に囁かれて心臓がばくん、跳ねる。
「……ごめんね」
「な、何が?」
「寂しい想いさせて、ごめん」
その声が今までに聞いたことがないくらい苦しそうで、私は心臓の辺りが少し痛んでかなしくなってきた。
「…恭弥、私、恭弥のこと、好きだよ。すごく好き」
恭弥の眼を見てそう言うと、恭弥は一瞬驚いたような顔をして、それから優しく笑った。
「僕ものことが好きだよ」
恭弥が私の顎に軽く手を添える。静かに眼を閉じると恭弥の唇がそっと私のに触れた。しばらくしてキスが終わると恭弥はさっきより強く私を抱きしめ、「今度の休み、二人で何処か行こうか」と耳元で囁いた。