『君は僕の魔法使い!』
ソファに座って日誌を読みながらちらりと横目で時計を見れば4時半。いつもならもうとっくに此処に来ている筈の彼女の姿はまだ無い。何かあったのだろうかと思って何度か携帯に電話してみたが、『ただいまこの電話は電波の届かない場所にあるか、電源が切られています』というメッセージが流れるばかりだった。
探しに行こうかと日誌を閉じて立ち上がったとき、廊下から少し慌てたような足音が聞こえてきた。――――あぁ、だ。
「」
「うわぁっ!」
ドアを開けるとが僕に向かって倒れこんできた。
「何?今日は随分積極的じゃない」
「ち、違うよ!!私がドアを開けようとしたら、恭弥がいきなりドアを開けたから前のめりになっちゃっただけなの!!」
真っ赤になって必死に言い訳するの制服と髪には所々埃がついている。
「ところで」
「うん?」
が上目遣いで僕を見る。…本当に無防備なんだから。
「今日は遅かったね。携帯も繋がらなかったし」
「あ、それがさ、担任の上田先生に手伝い頼まれてさ。連絡しようとしたんだけど荷物運びだったから手が塞がっててできなかったの。ごめんね」
「ああ、それでか。埃取ってあげるからちょっと待ってて」
そう言ってロッカーから洋服用ブラシを持ってくるとは「自分でやるからいいよ」と手を出したが、僕はその手を遮って彼女の制服にブラシをかけ、髪についた埃をとってあげた。
「はい。終わったよ」
「ありがとう……何か恭弥って魔法使いみたい」
「何で?」
「だって灰かぶり姫は魔法使いのおばあさんの魔法で綺麗になるじゃない。だから魔法使い!あーでも立場は王子様だから………魔法使いの王子様!!」
にこにこしながらが僕を見る。僕にしてみれば君のほうが魔法使いだ。だって、僕は君が笑うだけでこんなにもしあわせなんだから。
だけど、そんなことは絶対に言ってあげないよ。
「」
「ん?」
「好きだよ」
きつく抱きしめてそう言うとは顔を真っ赤にして「私も恭弥が好きだよ」と言った。あぁ本当に僕はしあわせだ。
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