いつだって私は恭弥に慌てさせられてばかりだ。いきなりキスされたときとか、抱きしめられたときとか、愛してるよって言われたときとか、私はどきどきしてしまう。しかも恭弥はそういう顔を見てまた「可愛い」とか言うから余計どきどきしてしまう。
だから今日だけは恭弥を慌てさせよう、と固く決意して学校に着くなり応接室に向かい、ドアを勢いよく開けた。恭弥はソファに座って日誌を読んでいる。
「恭弥、今日一日私に触ったら駄目だからね!」
そう言ってドアを閉めて駆け出すとちょうど予鈴が鳴った。恭弥は少し驚いていたみたいだし計画は成功だ。私は嬉しくて心の中で小さくガッツポーズをした。
昼休みになっていつも通り応接室に向かう。最初は放課後まで会いに行かないようにしようかと思ったけど、そこまでしたら可哀想かなと思うし、その方が逆に不自然かな、と思っていつものように振舞うことにした。
「恭弥〜」
「、ちょっとおいで」
「ん?」
応接室に入るなり恭弥が手招きしたのでわざと手の届かない辺りで立ち止まろうとしたけど、恭弥は素早くソファから立ち上がって私の腕を掴んで引いた。私はそのまま恭弥の胸に倒れ込む格好になる。
突然のことにびっくりして固まっていると恭弥に抱きしめられた。
「恭弥!触ったら駄目だって言ったじゃん!」
恭弥の腕の中でばたばたと抵抗してみたがびくともしない。
「あぁそれなら嘘なんでしょ?だって今日はエイプリルフールなんだから」
「ばれちゃったか…」
恭弥はこういう行事には疎いかと思っていたけど所詮私の考える事、恭弥にはすぐにわかってしまったようだ。
「、何でこんな事したの?」
…狡い。そんな優しい声で訊かれたら答えるしか出来ないってわかってる癖に。
「だって…たまには恭弥を慌てさせたかったんだもん。いつも何か私ばっかり恭弥にどきどきさせられてるみたいで悔しかったから……」
ああもう恥ずかしいよ、と呟いて恭弥の胸に顔を埋めると恭弥の匂いがした。私の一番好きな、匂い。これだけで私の心臓はこんなにもどきどきしてしまう。いつか心臓がどきどきし過ぎて死んだら死因は「恭弥中毒」だ。お酒を飲みすぎて死んだらアルコール中毒だから依存症よりも中毒の方が合っている気がする。
そんな事を考えていたら恭弥が、
「僕はいつもを愛しているよ」
と耳元で言ってキスしたから私の心臓はもっとどきどきしてしまった。あぁもう、本当に死んでしまいそう。