久しぶりに何もない日曜日だから、本読んだりDVD観たりして過ごそうかなと思ったら、突然携帯が鳴った。
「もしも」
『恭弥、助けて!』
切羽詰まったの声。まさか−−−
「っ、今何処?」
『え?自分の部屋だよ』
「すぐ行くからじっとしてて!」
電話を切ってバイクの鍵を引っつかむと、玄関のドアを後ろ手で乱暴に閉めてエレベーターを呼ぶ。(オ−トロックでよかった)ちょっとしてエレベーターが来て、開き始めたドアの隙間から入り込むと1階を指定して閉ボタンを連打する。そして着いてドアが開くなり飛び出して駐輪場へ行き、暗証番号を押してバイクを出すと制限速度ぎりぎりでの家に向かう。
 バイクをの家の前に停めると、「恭弥っ!」とが二階の窓から顔を出した。
「何があったの?」
「とりあえず部屋まで来て−」
まどろっこしいから塀を足がかりにの部屋の窓まで跳躍、靴を脱いで部屋に入るとががしっ、と僕に抱きついてきた。夏だから薄着で、その、胸が当たってるんだけど…。僕も一応中学生だし男なんだからさ、そういうところ考えてほしいよ。いくら僕が彼氏でも、ね。もしかして他の男にもこんな感じなのかなこの娘は。
「恭弥が来てくれてよかった−!」
「…どうしたの?」
何とか平静を装って尋ねれば、はテ−ブルを指差した。その上に広がっているのは…どうみても夏休みの課題だ。
「数学がどうしても間に合わなくてさ−。恭弥頭いいから手伝ってもらおうと思って」
「………………」
はぁ、と溜息をついたらが悲しそうな顔をしながら僕の顔を覗き込んできた。
「恭弥、怒ってる…?」
「別に怒ってないよ」
「ほんと…?」
「うん。ほら、早く課題片付けないと間に合わないよ」
「うん!」
 問題集をぱらぱら見ていくとどの問題も前半はあらかた埋まっているが、それ以降は空白だったり何度か書いては消してを繰り返した跡がある。これくらいなら期限まで1週間あるから何とか終わるだろう。
「じゃあ最初の単元からね」
「はい!」

 1時間後。
「−−−じゃあ、キリがいいからここで休憩しようか」
は僕がそう言った瞬間、待ってましたとばかりにテ−ブルに突っ伏した。
「きょ−や…あたし知恵熱出すかも」
「このくらいで根を上げちゃダメだよ」
「ん−…じゃあさ、ちゃんと夏休み明けテストでいい点とれたら私の言うこときいて?」
多分無意識なんだろう、上目遣いでそう言われた。そんなかわいい顔でねだられたら頷くほかないじゃないか!
「……いいよ。70点以上取れたらね」
「う…がんばる」
その顔はとても真剣で。そんなになるほどのお願いってなんなんだろう…。
***
 僕がに勉強を教えてあげるようになって7日目。あれから日を追うごとにも飲み込みがよくなってきたから今日でちゃんと終わるだろう。
 いつものようにの部屋に窓から入ると、がテ−ブルに突っ伏して眠っていた。テ−ブルに広げられたノ−トには昨日僕が教えた範囲の問題がしっかりやってある。着替えは済ませてあるから徹夜してたわけじゃなくて夜遅くまで勉強していたらしい。ゆっくり寝かせてあげようと起こさないようにそっと抱きあげベッドにおろすと、タオルケットをかけてあげる。髪をすくって落とすと僕の手をさらさらした髪が流れて心地よい。
 ちょっとしてが「んぅ…」と身をよじったと思ったらゆっくり目が開いた。最初はぼんやり虚空を見つめていたけど、僕と目が合うなりがばっ、と勢いよく起き上がった。
「恭弥っ、ごめん!」
「大丈夫だよ」
かわいい寝顔を見せてもらったしね、と言ったらは顔を真っ赤にして「ばか−−−!」と言いながらぽかぽかと僕を叩く。…ちょっと意地悪してやろうかな。
「そんなこと言うんなら教えてあげないよ?」
「う、それは…」
困る、ともごもごしてるもかわいい。いつもなら抱きしめてしまうところだけどのために我慢、我慢。
「それじゃあ勉強始めようか」
「うん」

 そして夕方。
「終わった−」
がばたっ、とテ−ブルに倒れ込む。
「よく頑張ったね」
いいこいいこ、と頭を撫でてやるとが「きょうや…」と小さな声で僕を呼んだ。
「どうしたの?」
「あの、ぎゅってして?」
ちっちゃい子みたいなねだり方が可愛くて思わず笑みが零れる。「いいよ」とを抱きあげて膝に載せ、抱きしめるとが僕のシャツをきゅっ、と掴んだ。
「恭弥」
「ん?」
 そのとき、頬に柔らかいものが触れた。いつもは「してよ」って言ったって嫌がるのにこんな時にするなんて…は、ずるいよ。下を見ればは自分でしたくせに僕より真っ赤になって俯いている。
 お返しだ、とばかりに顎に手を添えて唇に触れるだけのキスをしたら金魚みたいにもっと真っ赤になって口をぱくぱくさせていた。

***
 1週間後、僕がいつものように応接室で書類を片付けているとコン…、コン、とドアがノックされた。
「恭弥…」
「開いてるよ」
そう言うとゆっくりドアが開いておずおずとが入ってきた。
「恭弥…テスト、返ってきたよ」
「そう。どうだった?」
「っと…これ、です」
渡された紙をそっと裏返す。数字が目に入った。

「…ワオ」


72。


 はにかむを手招きして抱きしめる。
「よく頑張ったね、。約束通り、の言うこと何でもきいてあげるよ」
「ん…と、あの……一日だけ、恭弥の家に泊まらせてください………」
は、が僕の家に…?ということはとご飯作ったり、お風呂上がりのとか、と一緒に寝るとかそういう事だよね。しかも僕の家は寝具はベッド一つしかないから一緒に寝る、しかない……………………僕ソファで寝よう、うんそうしよう。
「あの、恭弥…だめなら他のにするよ?」
「大丈夫だよ」
「…ありがとう」
が満面の笑みを浮かべる。やっぱり君はずるいよ。
「…どういたしまして」
僕は赤くなった顔を見られないようにを強く抱きしめた。