恭弥は黒曜から帰ってきてから小鳥を一羽連れている。恭弥はああいう風だけどかわいいものがすごく好きだから、皆が見ていないところでは猫を可愛がったりしている。だから別に鳥を連れてきたって別に構わない。けど。だけど、私が仕事中に話しかけても書類から目を離さないで適当に相槌を打つだけなのに鳥にはちゃんとそっちを見て「待ってて」とか言うところとか、仕事が終わるまで絶対に構ってなんかくれないのに鳥が退屈しだしたら仕事を中断して遊んであげるところを見ると何だか私より鳥が大事、みたいでむかむかする、というより、なんていうか、かなしく、なるんだ。カタン、とペンを置く音がしたから読んでいた本から目を離してちらりと恭弥を見たら鳥の頭を撫でてまた仕事を始めた。…もうしらないんだから。
30分くらいして恭弥が椅子から立ち上がる音がした。
「」
私は何も言わずに読書を続ける。
「?」
足音がこちらに近づいてくる。
「…」
とん、と軽く肩を叩かれる。それでも何にも言わずにいると恭弥は「っ…」と少し慌てたような声で私を呼んでぎゅ、と抱きしめた。私はぱたん、と本を閉じてテーブルに置くと恭弥の方を見ないで言った。
「恭弥なんか、きらい」
私を抱きしめる恭弥の腕の力が少し弱まる。下を向いたら涙がぽろぽろこぼれてきて恭弥の学ランの袖を濡らした。
「…」
「なんで、っく……わたしのことはほっとくのに、っく…その鳥はっ、構うの?っく、いつ、もっ、仕事してるときは、わたしがはなしかけてもっ…っく、絶対こっち、見てくれないのに……だから、だいきらい」
胸のあたりがきゅうっ、と締め付けられるような感じがして、痛い。
「」
耳元で名前を呼ばれて強く抱き寄せられて恭弥のほうに倒れ込む格好になる。
「ごめんね………ほんとはちょっとにやきもち妬いてほしかっただけなんだ。ごめんね」
「っ…ひどいよ」
「ごめん…ほんとにごめんね。だからきらいなんて言わないでよ……僕はのこと愛してるのに」
悲しそうな声で恭弥はそう言うと私を強く抱きしめた。
「…………きらいじゃないの。ほんとは好き。大好き、だよ」
「うん。」
「ん?」
「こっち向いて」
言うとおりにしたら顎に手を添えられて、目を閉じたら恭弥の唇が私のにそっと触れた。途中で恭弥の背中に手を回したら私を抱きしめていた恭弥の腕に力がこもった。
唇が離れると恭弥は私を抱きしめて「愛してるよ」と言ったから、私も「…愛してるよ」と言ったら恭弥が嬉しそうに笑ってもう一度キスをした。