いつもより家を早く出て応接室に向かう。ドアを軽くノックすると「誰?」と恭弥の声がして「だよ」と言ったら「入って」と言われたのでドアをいきおいよく開けた。バーンと音がして恭弥が顔をしかめたけど気にしない気にしない。
「きょーや!Trick or Treat?」
「朝から何かと思ったらそれか…あいにくだけどい」
「えーじゃあ悪戯するよ!」
デスクに座る恭弥に近づいて頬を軽く引っ張ってみるとむに、と頬が伸びて何だか面白くて、くすくす笑っていたら恭弥に頬を引っ張られた。傍から見たらただのバカップルだろうな…。
「ひょーや」
「ひゃひは」
お互い頬を引っ張られているからまともに喋れなくてそれにまた笑っていたら恭弥の頬を掴む手に力がこもって突然離された。その拍子に私も恭弥の頬を掴む手を離す。
「痛いよー」
「僕の話最後まで聞いてた?」
「何が?」
そう言ったら恭弥ははぁ、と溜息をついた。
「あいにくだけど今はないよ。今は」
「じゃあ後ならあると」
「そういうこと」
さすが恭弥。私の考えることなんてお見通しだったらしい。まぁ恭弥の頬を引っ張られた顔を見られただけちょっとラッキーだったな。
「わかったらちゃんと授業受けてくるんだね」
「えー」
「風紀委員長の前でサボる気?…ちゃんと授業出たらあげるから」
「…わかった」
しぶしぶ応接室を出て教室に戻る。授業を受けながらも頭は恭弥のことでいっぱいで何くれるのかなーとノートを取りながらその端にチョコレート、キャンディ、クッキー………色々なお菓子の絵を描いてみたり、恭弥に似合いそうな仮装の絵をいっぱい描いてみた。あとで恭弥に見せようっと。多分「君何してるの」って怒られるだろうけど。
キーンコーンカーンコーン…
チャイムが鳴って先生が教室を出るなり私は鞄を持って応接室に駆け込んだ。
「きょーや!」
「ちょっと待ってて」
ソファに座っているとしばらくして恭弥は立ち上がり、冷蔵庫から白い箱を持ってやってきた。
「これ、何?」
「の好きなものだよ」
恭弥が箱を開くと中から「Happy Halloween!」と書かれた小さな蝙蝠の形をしたカードのついた、栗とチョコレートのタルトが二つ現れた。
「あー!これ…」
「ハロウィン限定だっていうから風紀委員に買ってこさせたんだよ。後で紅茶入れるからまずお昼にしようか」
「あ、ありがと」
だから「今は」って言ったんだ…。
お弁当を食べ終わると恭弥はトレーにお皿とフォーク、ティーセットを載せてやってきた。
「はい」
「わーい!いただきまーす」
カードを外してお皿の隅に置いてからゆっくりとタルトにフォークをいれる。
「…おいしー」
にこにこしてたら恭弥が嬉しそうに笑って「そう」と言って私の頭を撫でた。
「恭弥も食べなよ!」
「そうだね」
そう言って恭弥がタルトを一口食べる。その動作が綺麗でみとれていたら「そんなに見られてたら食べにくいよ」と言われてしまった。
「おいしいね」
「でしょ?」
またタルトを一口食べると口の中に甘い味が広がった。そしてあっという間にタルトを食べ終えてしまった。
「おいしかったー!」
「そう。よかった」
「恭弥、ありがとう!」
「…どういたしまして」
そう言ってまた恭弥は優しく私の頭を撫でた。