午前中の授業が終わり、教室がざわめきだす頃。私は昼食を持って一人、屋上に向かっていた。屋上には珍しく誰もおらず、私は日あたりの良い所を見つけてお弁当を食べ始めた。
いつもなら応接室に向かうのだが、今日は違う。これは私のささやかな反抗だ。別に彼と喧嘩をしたわけではないのだけれど。此処最近は忙しいらしく、昼休みにしか会えない。それなのに恭弥は書類整理ばかりで、話をしても偶に「ふぅん」とかいう適当な相槌しかうたない。
―――――なら、私はいなくてもいいじゃない。
子供じみた我儘だってことは自分でもわかっている。それでも―――
キーンコーンカーンコーン……………
そんなことを考えているうちに予鈴が鳴った。(確か次は学活で視聴覚室でビデオ鑑賞だったけ…急がなきゃ)お弁当を仕舞って屋上を出ようとしたとき。
「」
と頭上から声がした。見上げると、出入り口の屋根の上に恭弥がいた。
「雲雀」
「」
何、と言いかけた瞬間、恭弥が屋根から降りてきて私を抱きしめた。
「―――――ごめん」
恭弥がそっと耳元で囁く。それだけで全てを許してしまいそうになるけれど、ここで流されたら私の反抗が無意味になってしまう気がして、もう少しだけ意地を張る。
「…何の事?雲雀」
わざと雲雀の部分を強調して言うと、彼の腕が少しきつくなった。
「寂しくさせて、ごめん」
恭弥のワイシャツから彼の香りがした。久しぶりだな―――
「大好きだよ、恭弥」
彼には聞こえないようにそう言うと、私は彼の背に腕を回した。
もう授業は半分ほど終わってしまっているのだろうけれど、そんな事はもうどうでもよかった。どうせ退屈なものの感想を書くだけなのだから、それならこうしている方がいい。―――皆には少し申し訳ない気がするけど。
(『世界で一番愛している』だなんて言えないけれど/誰よりも好きな人だから)