掃除が終わって「やっと雲雀さんに会える」とうきうきしながら廊下を歩いていたら、いきなり前方からちっちゃい牛の格好をした子とツナくんが走ってきた。
「こらー!待てランボ!!」
「ランボさんはダメツナなんかにつかまらないんだもんねー!」
みんながびっくりして道をあける。それをランボくんはあっさり走りぬけていくけどツナくんは人にぶつかっては「ごめん」を言っている。このままだと雲雀さんが来てまたツナくんが怒られちゃう!
ランボくんの前に飛び出して捕まえようとしたらその前にランボくんがおもいっきり前のめりにこけてしまった。すごく痛そうだけど、思わず「なんて見事なこけ方なんだろう…」と感心してしまった。
「だ、大丈夫?」
「うぅ…が・ま・ん……しないもんねー!」
駆け寄ると同時にランボくんが突然アフロの中から紫色のバズーカを取り出した。そしてカチッ、という音と同時にピンク色の煙の塊が私の顔面に直撃した。
え、もしかしてピンチ?
In future …
気が付くとありえない広さの和室に倒れていた。一体何畳あるんだろう…むしろここは何処?誘拐された?いや私を誘拐してもおいしくないです!なんの得にもならないです!雲雀さんみたいなお上品なやんごとなき家の生まれじゃなくてフツーのサラリーマン家庭ですからっ。ブランドのマーク見てもさっぱりですから!
とりあえずすぅーはぁー、と深呼吸してみる。ちょっと落ち着いた。うん、よし。
とにかくここは何処なのかと部屋を出ると石庭があってまるでお寺みたいだ。そのまま廊下を歩いてみるけど誰もいない。一体どうしちゃったんだろう。夢にしてはリアルすぎるし…。
「…誰」
振り向くと黒い着流しを着た男の人が立っていた。どことなく雲雀さんそっくり…(ドッペルゲンガー?)男の人は私を見ると目を見開いた。
「君、もしかして…?」
「え、あ、はいっ」
「ふぅん」
男の人は勝手に納得して「なるほどね」なんて言っている。なんで名前知ってるの?やっぱり誘拐?よく見るとちょっと任侠の人みたいに見えなくもないし。でも怖くないっていうか、雰囲気も雲雀さんに近い感じがする。
「あの、ここは何処ですか?」
「ここは君のいた時間の10年後の世界だよ。君が当たったのは10年バズーカといって、現在の自分とそこから10年後の自分を入れ替える道具なんだ」
「え…じゃあここは未来で……あなたは、雲雀さん?」
「そうだよ。でも効力は5分だけだからね」
「そうなんですか…」
ということは私がここにいたってことだよね?じゃあ私と雲雀さんは…
「君は今、僕と付き合い始めたころだよね」
「そうです」
「君は変わらないね」
雲雀さんはすっ、と目を細める。
「そ、そうですか?」
「うん。君のままだよ。残念?」
「なんかちょっとがっかりです…10年後はもっとこう、大人の女の人っぽくなってるかと思って…」
「あぁ、そういう意味なら君は大人になったよ。でも中はそのままだ」
「中が…?」
「うん。寂しくても僕のことばっかり心配して『大丈夫だよ』なんて言うし、血が怖いのに僕の手当てをしたがるし、すぐ真っ赤になるし」
「ひ、雲雀さんはなんか変わった気がします。こう、やわらかいっていうか…」
うまく言えないのがもどかしい。でも雲雀さんにはちゃんと伝わったみたいだ。
「だとしたら、君にだけだよ。君のおかげだ」
優しい笑みを浮かべた雲雀さんはやっぱり今の雲雀さんよりずっとやわらかい雰囲気だ。
雲雀さんの笑顔に見蕩れていたらいきなり抱きしめられた。
「これから君のことをずっと心配させてしまうけど、必ず僕は君のところに帰るから。だから待っていて」
「…はい」
まるでプロポーズみたいな台詞に思わず頬が赤くなる。雲雀さんと私はこれからもずっと一緒にいられるんだ。雲雀さんはずっと好きでいてくれるんだ、私のこと。なぜか涙がこぼれてくる。
「泣いてるの?」
「いえ、その…ごめんなさい」
「やっぱり君は変わらないね」
雲雀さんが袖でそっと涙を拭いて頭を撫でてくれる。
「好きだよ。これか」
雲雀さんの言葉の途中でボフン、と再びピンク色の煙に包まれた。
***
「おかえり」
「…ただいま」
煙が晴れるといつもの雲雀さんが立っていた。あたりを見回すと、教室のドアから居残っていた子達が興味ありげに覗いている。ツナくんとランボくんは無事逃げられたかな。
「あの、10年後の私に会ったんですよね」
「うん。変わってなかったよ」
「…雲雀さんはちょっと変わってました」
「ふぅん…僕が変わるなんて考えられないな。でも君がいるんならそれでいいや。さ、応接室行こうか」
雲雀さんはいつものように口説き文句のようなことをさらりと言って歩き出してしまう。
「…私も」
「ん?」
「雲雀さんがいるなら、それでいいです…」
そう言ったら雲雀さんはちょっと赤くなってぷいっと前を向いてすたすたと歩いていってしまった。
I love you forever.
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