『言えないことば』
気晴らしにと屋上に寝転がりながらぼんやり空を眺める。は今頃一生懸命授業を受けてるんだろうな…あぁ、まただ。
最近、どうも僕はおかしい。
書類整理をしてる間もの顔が浮かんできて仕事は進まないし、草壁には「どうかされましたか?」なんて言われてしまう。放課後にはが来るまで仕事が手につかないし、来てもが気になってやっぱり仕事が進まない。(でも何もできないでいる)そのうえ眠る度に夢にが出てきて「すきです」なんて頬を染めながら言ったりするからどきどきして心臓が持ちそうにない。…まぁ目が覚めて夢だって気付いてがっかりするんだけど。
たまたまが応接室の窓から飛んでいった書類を届けにきたのがきっかけで僕が風紀委員にしたんだけど、そのときは『面白い子』としか思っていなかった。思えばそれが『好き』だったのかもしれない。
だけどうまく伝えられない、表せない。一緒にいても紅茶をいれてあげるとか、の好きなお菓子を準備しておいたりとか、遅くなったら家まで送ってあげるとかしかできなくて、「かわいいよ」の一言も言えないし、気の利いた会話も出来ない。拒絶されるのが怖くて手なんか繋げない。
君のことがこんなにも好きなのに―――
***
今日はが部活の昼練で一人でお昼休みを過ごすから、せっかく天気もいいんだしと屋上に行くことにした。というのは言い訳で。本当は雲雀さんに会いたいから。天気が良い日には屋上でお昼寝をするのが好きだから今日はほぼ間違いなくいると思う。
書類を届けた時に一目惚れしたんだけど、雲雀さんは風紀委員長にして不良の頂点、そのうえ群れるのが嫌いで有名だから叶わない恋をしたのだと思っていた。だから風紀委員に指名されたときにはびっくりしたというより嬉しかった。
そおっと屋上のドアを開くと雲雀さんが一番日当たりのいいお気に入りの場所で眠っていて、思わずガッツポーズをした。音を立てないようにドアを閉めて雲雀さんからちょっと離れたところに座って校庭を眺めようとしたら、
「」
と名前を呼ばれた。その声は紛れもなく雲雀さんので。
「あ、あの起こしてしまってすみ」
「来て」
私の言葉など微塵も聞こえていないように手招きをする。どうしたのかと近づくとブレザーの袖をきゅっ、と引っ張られた。か、かわいい…!
「一緒に寝てよ」
予想外の言葉に戸惑いながらも雲雀さんの示す通り横に寝転ぶと、雲雀さんは満足げに微笑んで私を抱きしめて目を閉じ、すぐにすやすやと寝息をたてはじめてしまった。うわぁぁぁぁぁ、近い、近いよ!それにこれじゃあ午後の授業サボリ確定だ。でもこんなに近くにいられるならそのくらいいいかも…。(社会の先生ごめんなさい!)
雲雀さんの胸板に顔を埋めたら香水とかのじゃないけどいい匂いがしてなんだか安心した。
もしも夢ならこのまま覚めなければいいのに―――
***
目が覚めたらが僕の胸板に顔を埋めていて思わずあっ、と声をあげそうになった。あれ、夢じゃなかったんだ…。自分の顔が赤くなっていくのがわかって余計恥ずかしい。でもラッキーだったかな。髪を梳いてやればはしあわせそうな笑みを浮かべて擦り寄ってくる。
「ひば……………」
―――――え?
「ひばりしゃん……しゅき………」
呂律が回ってないみたいだけど、僕…だよね?
「………かわいい」
今までどうしても言えなかった言葉を呟いて、起こさないようにそっと頭を撫でる。
「すきだよ、」
そう言ったらの耳が赤く染まった。もしかして―――
「…」
「……………はい」
「その、いつから起きてたの?」
「そ、それは…その、雲雀さんが起きる少し前に目が覚めてて…それで、まだ寝てるみたいだったからもう一眠りしようかなって思って目を閉じたら、髪、触られて…て言われたから今なら平気かな、って…」
いたずらがばれてしまった子供みたいにしどろもどろに説明するがあんまり可愛くて、もっといじめたくなってきた。
「ねぇ」
「はいっ」
「じゃー、ちゃんと言ってよ」
「え」
「僕はちゃんと言ったんだからね」
するとは今にも煙が出そうなくらい真っ赤になって、きゅっ、と目を閉じた。
「ひ、ひばりさんのことっ、すきです!」
「…うん」
、と名前を呼んで抱きしめたらの腕が躊躇いがちに僕の背に回る。それが嬉しくて思わず抱きしめる腕に力がこもった。
「僕ものこと、すきだよ」
耳元で囁いたら、またが真っ赤になった。
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