たそがれどき、君と
授業が終わって帰ろうと昇降口で靴を履き替えていると
「」
と聞きなれた声がした。
「きょ、恭弥!何しに来たの?」
「何ってを迎えに。さ、行くよ」
恭弥はさっぱり状況を飲み込めずに慌てふためく私の腕を掴んで引っ張っていく。校門に着くと恭弥は止めてあったバイクに乗り、後ろの席を叩いた。乗れ、ということらしい。ここまでくるともうどうしようもない。私は大人しく指示に従った。
「ちゃんと捕まってないと落ちるからね………行くよ」
近所迷惑な音を出してバイクが走りだした。いつもとは違う速さで景色が流れていく。ときどき下校途中の並中の生徒が驚いたような目で私達を見ていて恥ずかしかったけど、恭弥の背中があったかくて、そんなことはすぐに忘れてしまった。
しばらくしてバイクが止まった。
「着いたよ」
「ここは…?」
着いたのは見たことのない小さな公園。
「こっち」
入り口の車止めの前にバイクを止めて、また恭弥が私の腕を掴んで歩き出しジャングルジムの前で立ち止まった。そして私の腕を離して上りはじめる。
「恭弥?」
恭弥はさっさと頂上まで上ってそこに腰掛けながら私を眺めている。
「何してるの?早く来なよ」
「え、あの、スカートなんだけど」
「大丈夫。誰もいないから」
ジャングルジムに上るなんて何年ぶりだろう。多分小学生低学年くらいの時に上ったのが最後だ。所々塗装が剥がれているせいで頂上に着く頃には手が錆び特有の臭いを放っていて、どこか懐かしい感じがした。
「わ………」
橙と朱の中間のような色の空とその色に染まった雲。沈みかけの太陽に照らされて私も恭弥も同じ色に染まる。それからあっという間に陽が沈んで辺りは薄暗くなり、街灯にあかりが灯り始めた。
「帰ろうか」
「うん」
ジャングルジムから降りると恭弥が今度は私の手に自分の手を絡めて入り口へと歩き始めた。
「恭弥」
「…何」
「…ありがと」
「………どういたしまして」
振り返らずにそう言った恭弥の手を、私はそっと握り返した。
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