『君が愛おしい』



 次の時間は理科の実験だから急がなきゃ、と小走りで理科室に向かっていると、突然背後から声がした。

振りむくとそこには風紀委員長のヒバリさんがいて、つかつかとこちらに向かってくる。自分が何かまずいことでもしてしまったのかと考えてみるが思い当たる節はない。
 そうこうしているうちに、彼はすぐ近くまでやってきた。
「僕の彼女になりなよ」
驚きのあまり声が出ない。もしかしてこれは、その、告白というもの…?いや、まさかヒバリさんがそういうことをするなんて考えられないし。もしかしたら夢なのかもしれない、と手の甲の皮膚を引っ張ってみると、ちくりと小さく痛みがはしった。
「返事は?」
ずい、とヒバリさんの綺麗な顔が近づいてきて思わずどきっ、としてしまう。
「え、いや、そんな、急に言われても…」
「…好きなやつでもいるの?」
「い、いませんけど」
「じゃあ放課後、応接室に来てね」
そう言うと彼は立ち尽くす私を残し、去っていってしまった。


*****

 放課後、私は応接室のドアの前に立っていた。あれからすぐにチャイムが鳴り、何とか授業には間に合ったもののさっきの出来事で頭がいっぱいになってしまい、授業どころじゃなかった。おかげでその後の苦手な社会科で先生に当てられるわ、階段を踏み外すは、もう散々だった。しかもその現場を幼馴染の雄治に見られてしまい、大笑いされた。雄治とは幼稚園からの付き合いで、親同士も仲が良いうえに家が隣にあるのでときどき一緒に遊んだりもしていた。
 深呼吸してかたドアをノックすると中から「開いてるよ」とヒバリさんの声がした。
「失礼します」
ドアを開くと目の前に山積みの書類が置かれたデスクが、右側にはソファとテーブルがあり、ヒバリさんはそこに座っていた。
「こっちにきて」
言われるままにそちらに行くとソファに座るよう言われたので、少し考えてからヒバリさんの目の前に座った。ちら、と目線を上げるとヒバリさんと目が合ってしまって、慌てて下を向いた。あんまり綺麗な眼で、どきどきしてしまう。
「今紅茶いれるからちょっと待ってて」
「は、はい…」
 あたりをきょろきょろと見渡していると、私の隣に黄色くて丸い鳥が飛んできた。この子が最近噂になっている「ヒバリさんの飼っている鳥さん」だろうか。私を見て小首をかしげる姿がかわいらしくて、そっと手を伸ばすと擦り寄ってきた。そのまま優しく撫でてやると気持ち良さそうに目を細めた。
「はい」
「ありがとうございます」
紅茶はほどよい温かさで、一口飲んでみるといい香りがした。
「ところで、本題に入るけど」
「は、はい。あの、申し訳ないんですけど、まだ返事は…」
「返事はいつでも構わないよ。でも、君には2つだけ約束してほしいんだ。
 一つ目は敬語を使わないこと。それから二つ目は、お昼休みと放課後は此処に来ること。もし何か用事があるときには言ってくれればいから」
「わかりました」
「敬語」
くす、とヒバリさんに笑われて顔が赤くなるのがわかる。さっき言われたばかりなのに。
「あ、えと…わかった」
「うん…それでいいよ」
その後は他愛のない話をして、帰る頃には暗くなってしまったのでヒバリさんが家まで送ってくれた。

 それから雲雀さんに会う時間が楽しみになってきて、送ってもらうときには手を繋ぐようにもなった。ただ、ときどき雲雀さんは私の髪にそっとキスすることはあっても、唇はおろか頬にすらしなかった。

*****


 雲雀さんに告白されてから1週間ほど経ったある日の放課後、いつものように応接室に行こうとしたら雄治に呼び止められた。

「なに?」
「…ちょっと話があるんだけど、いいか?」
「別にいいけど」
「じゃあ屋上に行かね?あんまり人に聞かれたくねぇし」
いつも能天気な雄治があんまり思いつめた表情をしていたので、私は雲雀さんとの約束も忘れて、彼と共に屋上に向かった。
「で、どうしたの?」
「…俺、さ……お前のこと、ずっと好きなんだ。俺と、付き合ってくれないか?」
雄治が真っ直ぐ私を見た。何故だろう、そのときただ『怖い』と思った。
「でも、私…」
「ヒバリさんのことは知ってる。けど、俺はずっと前から、お前のことが」
彼がそう言いかけたとき、雄治の背後のドアが勢い良く開いた。
「ヒバリさん…」
「雲雀さんっ…」
そう呟くと同時に私は雲雀さんに駆け寄り、彼の胸に顔を埋めて泣き出していた。雲雀さんは躊躇うように私を優しく抱きしめてくれた。

 しばらくして気持ちが落ち着いてきた私は自分のしていることに気付き、慌てて雲雀さんから離れようとすると彼の私を抱きしめる腕の力は
強くなった。
「ひ、雲雀さん、あの…離してくれませんか?」
「どうして?」
「恥ずかしいです…」
「やだよ。…ねぇ、。僕は君が好きだよ」
「……私もです」
「ちゃんと言ってよ」
その言葉の意味に顔が赤くなる。
「……雲雀さんのこと、好きです…」
真っ赤になっているであろう顔を見られたくなくてぎゅ、と雲雀さんに抱きつくと、私と同じくらいの速さの心音が聞こえた。



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